経営事項審査(経審)は公共工事の入札のために欠かせない手続きですが、経審の点数によって受注できる工事が決まってきます。
というのも経審はその点数と自治体の評価によって業者が格付けされ、規模に応じた工事を受注できるという制度となっているためです。
「経審の点数をあげるコツが知りたい。」
「効率よく点数をアップさせるには?」
このように思っている方へ、こちらでは、経審の点数を上げるための5つのポイントを中心に、結果通知書の見方などを詳しく解説しています。
ポイントを押さえて経審の点数をアップさせ、より大規模な公共工事を請け負えるようにしていきませんか。
経審点数を上げるための5つのポイント

経審の点数を上げるためには、まず次の5つのポイントを押さえることが重要です。
ポイント1:経審点の構造を理解する
経審の点数の構造をしっかり理解することこそ、点数アップのためにはとても大切です。
経審の点数は「総合評定値(P点)」として表され、会社の経営状況や経営規模などを数値化した5つの評点から求めます。
それぞれの要素の詳細は以下の通りです。
- X1:完成工事高
- X2:自己資本額・平均利益額
- Z:技術者の数・元請完成工事高
- Y:経営状況
- W:その他の審査項目(社会性等)
このような評点に決められた掛け率を掛け、合算したのが「P点」となります。
経審の点数がこのような構成で成り立っていることを理解することが、点数アップ対策の上で重要です。
経審の結果はインターネット上で公開されていて、同じ地域の同業他社の結果も閲覧できます。
点数が高い他社では、どのような部分が良くて点数が高いのかということを分析できるようになると、自社に足りない部分やこれから取り組まなければならないポイントも見えてくるはずです。
ポイント2:審査項目の評点算出方法と評点のアップ対策
それでは経営事項審査の評点算出方法と、評点をアップするための対策を解説していきます。
P点:総合評定値の算出方法
「P点」は、次のような数式で算出します。
総合評定値(P)=0.25X1+0.15X2+0.2Y+0.25Z+0.15W
※小数点以下四捨五入
X点(X1・X2):完成工事高等の経営規模ー完成工事高の配分
「X点(X1・X2)」は、いずれも会社の経営規模を示す評点です。
それぞれの詳細は以下の通りです。
- X1…工事種類別年間平均完成工事高
- X2…自己資本額・利払前税引前償却前利益
「X点」は完成工事高や自己資本金額などで点数が決まってくるということで、短期的な対策による点数アップは難しいのが現状です。
しかしそんな中でも点数アップに効果的な方法が2つあります。
1.完成工事高に「工事進行基準」を用いる
多くの建設会社では、完成工事高は工事が完了した時点で初めて収益として計上するのが一般的です。
しかし年度をまたいだ工事の場合、経審の申請時に工事8割完成していても、工事が完成していない限り完成工事高に計上できません。
そこで、工事の進行状況に応じて完成工事高を計上できる「工事進行基準」を会計方法に用いれば、進行度合いに応じた完成工事高を計上でき、結果として点数アップにつながります。
※会計や税法については他の専門家のアドバイスを受けて下さい。
2.完成工事高の「業種間振替」を利用
完成工事高の「業種間振替」を利用して、関連する専門工事の工事高をアップさせることが可能です。
例えば静岡県では、特例計算として次のような振替が可能です。
<一式工事>
◆とび・土工、石、鋼構造物、舗装、しゅんせつ、塗装、水道施設、解体
→[土木一式工事]
◆大工、左官、とび・土工、石、屋根、タイル・れんが・ブロック、鋼構造物、鉄筋、板金、ガラス、塗装、防水、内装仕上、熱絶縁、建具、解体
→[建築一式工事]
<専門工事>
◆とび・土工⇔石、舗装、造園、さく井、解体
◆管⇔熱絶縁
◆板金⇔屋根
なお、特例計算をするためには振替元と振替先の両方の業種について建設業許可を受けていることが前提です。
Y点:経営状況ー利益追求と無借金経営
Y点は会社の経営状況が点数化されたもので、次のような審査項目です。
① 純支払利息比率
② 負債回転期間
③ 売上高経常利益率
④ 総資本売上総利益率
⑤ 自己資本対固定資産比率
⑥ 自己資本比率
⑦ 営業キャッシュフロー
⑧ 利益剰余金
「Y点」をアップさせるには、会社の財務の健全化がカギになります。
とくに「利益の徹底追及と自己資金比率アップによる無借金経営」が最も理想的な方法です。
具体的には次のような経営努力をすると、「Y点」アップが見込めます。
- 支払利息を減らす
- 受取利息を忘れず計上
- 借入金は返済する
- 利益確保のための見直し
- 固定資産を減らす
- 資本金を増やす(増資)
Z点:技術力ー資格取得の推進と活用
Z点は会社の技術力が点数化されます。
即効性のある対策が取りにくいため、会社の技術力を上げるために長期的な目線で取り組むといいでしょう。
なお、「Z点」の点数アップのためには、次のような施策が効果的です。
- 監理技術者講習の受講
- 技術職員を適正に振り分ける
- 社員の資格取得を支援
- 有資格者を優先採用
W点:社会的貢献度などの評価ー社会保険制度の活用
W点は会社の社会性等、その他の審査項目となります。
こちらは1項目当たりの加点が大きいため、改善することで大幅な点数アップが期待できます。
次の経審に向けて、効率的に点数アップを狙いたいという場合は、W点から考えることをおすすめします。
下記3項目については全て「有」にするのが点数アップのポイントです。
- 建退共加入の有無
- 退職一時金制度・企業年金制度の有無
- 法定外労働災害補償制度加入の有無
上記の労働福祉制度に加入していると、それぞれ15点が加算されます。
他に中小企業退職金共済事業(中退共)に加入している事業者や、建設業経理士の資格保持者がいる場合も、加点対象となります。
労働福祉制度への加入は、経審を受ける基準日(決算日)時点で加入しているかが審査されるため、決算日が近づいたらこれらの制度の加入状況を確実にチェックしましょう。
ポイント3:完工高の平均の選び方
完成工事高は高ければ高い方が、より経審の点数がアップします。
とは言っても経審を受ける際には、2年平均か3年平均化のどちらかを選んで申請しなければならず、どちらを選ぶかで点数アップに差が出るので、必ず事前に確認しましょう。
とくに複数業種の経審を受ける場合、業種ごとに平均年数を選ぶことができないので注意が必要です。
どちらの年数を選べば何点違ってくるのかを徹底的にシミュレーションし、点数を上げたい業種の優先順位を決めるようにしましょう。
ポイント4:技術者加点
在籍している技術者が保有している資格や実務経験、講習受講の有無によっても経審の点数が変わってきます。
資格や実務経験によって加点されるのはもちろんですが、講習を受講することでも点数アップが期待できるので、忘れずに取りたいところです。
中でも「監理技術者証」を持つ技術者がいる場合は、忘れずに監理技術者講習を受けるように指導しましょう。
ポイント5:決算書
経審の項目で決算内容が関係するのは「X2(自己資本額・平均利益額)」と「Y(経営状況)」です。
「X2点」は創業から審査基準日時点までどれだけ利益を出してきたか、「Y点」は決算書から建設業財務諸表を作成し、それを分析機関に申請して点数化してもらいます。
「Y点」の点数アップ対策として、貸借対照表の合計金額を減らすことが有効になります。
具体的には次のような方法で金額を減らせます。
- 赤字にしない
- 自己資本比率を上げる
- 借入金を返済する
- 固定資産を減らす
- 減価償却を忘れない
- 現預金のアップ
- 資本金の増額
結果通知書の見方

経審を受審して、3週間~1ヶ月程度で結果通知書が送られてきます。
結果通知書を見る場合には、次のような箇所を注意して見ましょう。
1.点数の付けられ方
複数業種で受審した場合、点数の付けられ方として「X2」・「Y」・「W」は業種に関わらず会社自体を評価する項目のため、全業種で同じ点数が加点されます。
一方、「X1」・「Z」の2項目は業種ごとに評価されるため、加点のばらつきが生じます。
よって経審の点数の付けられ方は、「X2」・「Y」・「W」の3項目をベースとして「X1」・「Z」の2項目で業種ごとに加点されると考えましょう。
2.経営事項審査で自社にとって最適な得点を得て公共工事を獲得
経審の総合評定値(P)をもとにして、自治体では公共工事の発注数や会社数とのバランスを取りながら、点数の高い方からA~Dにランク付けされます。
このランクに応じた発注予定額の公共工事に入札できるようになります。
自社の規模にあった公共工事を受注したいのなら、経審の総合評定値(P)の点数を最適にすることが必須です。
経営事項審査結果通知書の有効期間

経審の結果通知書には有効期限があります。
具体的には「審査基準日(決算日)から1年7カ月」です。
ただ決算日の後で経審を受審するまでは、次のような手続きが必要です。
- 確定申告(決算日から2カ月以内が期限)
- 決算変更届(決算日から4カ月以内が期限)
結果通知書の有効期限を途切れさせないためには、これらの手続きを速やかに行うようにしましょう
まとめ

経審の点数を最適にするには、まず点数の構造を理解して審査項目ごとの評点算出方法や、点数の付けられ方を知る必要があります。
その上でそれぞれの評点ごとに、効率的に点数アップが期待できる対策を取っていきましょう。
まずは即効性が高いW点を中心に点数アップを狙い、長期的な視点でZ点やY点などの点数アップに取り組むのがベストです。
受審後に届いた結果通知書も、総合評定値(P)だけでなく各項目をくまなくチェックし、同業他社と比べて自社が足りない部分がなにか明らかにしましょう。
結果通知書の有効期限が切れていると入札できないため、途切れさせないようそれぞれの手続きを速やかにするのも重要です。